遺伝子実験施設連絡会議発足によせて

 昭和50年2月、カリフォルニアのアシロマにおいて、組換えDNA実験の安全性に関する激しい論争が、研究者の自主的な会議において展開され、組換えDNA実験の本格的な幕開けとなった。
 我が国においても、組換えDNA実験の開始を切に願う研究者の要請が高まって「大学等の研究機関等における組換えDNA実験指針」が文部省大臣告示により公にされたのは、アシロマの会議から4年を過ぎた昭和54年3月31日であった。
 立ち遅れたわが国で、早急に実験が開始されるよう、昭和55年度に東京大学医科学研究所および大阪大学微生物病研究所に、翌年、京都大学化学研究所、九州大学医学部に組換えDNA実験施設が設置された。これらは、制度上、学内の共同利用の位置づけをもつものではなかった。
しかしながら、その後における遺伝子操作実験の飛躍的な発展と、わが国大学における実験従事者の増加に伴って、国として新たな対応を必要とされるにいたった。  文部省は、わが国の研究者、技術者の急速な養成を行うためには、学内共同利用の組換えDNA実験施設の整備を急ぐことが急務であるとして、その整備に力を入れることとした。
 整備の方針としては、その大学に多くの優れた研究者がいて、実験施設を置く学部等が多く、学内に組換えDNA実験室を多く擁している大学を優先することにした。施設は学内共同利用とし、P3レベルでの実験、RI使用が可能となるよう建物に配慮することにした。
 この施設の任務としては

(1)組換えDNA実験に関する研究、
(2)学生、研究者に対する組換えDNA実験に関する教育・訓練、
(3)学内の組換えDNA実験の安全管理、
(4)各種サービス業務、学内実験研究のコンサルタント、データバンク機能

等を期待した。
 昭和58年度、東京大学遺伝子実験施設を皮切りに、逐年、組換えDNA実験施設が整備され、今日は、初期に設置された機関を加えて、「遺伝子実験施設連絡会議」が設けられるまでに成長を遂げた。慶賀にたえないところである。
 この連絡会議が、会議の目的とするところを果されるよう、心から祈るとともに、この連絡会議が、わが国の組換えDNA実験研究について、発展に必要な提案や、積極的な活動展開の母体となられることを心から祈るものである。
 文部省としては、大学における組換えDNA実験が円滑に進められるよう、諸施策を積極的に進める業務があると痛感している次第である。

                           文部省学術国際局研究助成課
                                  大山 超

1986年8月

(遺伝子実験施設連絡会議のサーキュラー「遺伝子」の第一号(1986年刊)より転載)

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