平均値の差の検定

1)2標本の差の検定
A、対応のない場合
対応のない場合と言うのは、2群が互いに独立である場合のことです。
例:透析患者のIgG値が健常者に比べて高いかどうかを比べる。

◎2標本t検定
"処理群vs非処理群","被験薬vs対照薬"などのように、2つの
母集団の比較を行うような場合、 どちらの群もデータが 正規分布にしたがうとすると、2つの母集団の 母平均の差に関する検定を考えると 比較しやすくなります。 この検定を行うために用いるのが2標本t検定です。ここでは等分散が認められる 場合のStudentのt検定、 等分散が認められない場合のWelchのt検定 を行います。データ数は異なっていてもかまいません。

◎Wilcoxonの順位和検定
正規分布が仮定できない場合この方法を用います。

B、対応のある場合
対応のある場合とは、2群のデータの間に術前・ 術後とか、薬の投与前・投与後などといった同一対象から異なる2時点 の観測値の「ペア」が得られる時、または異なる
母集団から 同じ条件を持つものをペアとして選択するような場合を言います。
例:ある病院の眼科患者の眼部水晶体の厚さを2通りの方法で測定 したときそれらの方法に差が認められるか。

◎対応のあるt検定
2群に正規分布が仮定できる場合に用います。

◎Wilcoxonの符号付順位和検定
2群が正規分布をなすかどうかわからない場合に用います。


2)分割表の検定
A、2×2分割表の場合
◎フィッシャーの正確確率検定(停止中)
2×2分割表
発症
合計
喫煙習慣 154 19
61319
合計 211738
4つの桝目のいずれかの期待値が5以下の場合χ2検定よりも、 この方法で検定を行うのがよいとされています。
この検定は、 上のような
分割表を 作成したとき、 要因A と要因B (この場合は喫煙習慣と発症の有無)の 2変数が独立であるかどうか(喫煙習慣と発症の有無が無関係かどうか)もしくは、 2群の比率に差があるかどうか(喫煙習慣で発症率に差があるかどうか) を知りたいとき、に用います。上の例ではP=0.00814という結果が出ます。 有意水準 5%(α=0.05)で検定を行うとするとこの場合P≦αとなります。 このとき帰無仮説 (2要因は独立ではない)は 棄却され、 喫煙習慣と発症の有無には 関係がある(独立である)というということになります。

B、2×m分割表の場合
◎正確確率検定
m個のカテゴリーに 順序関係がない場合、この方法で独立性の検定(または比率の差の検定)を行い、 2群とm個のカテゴリーが独立であるか(関連があるか)どうかを判断します。 例えば、職種別(カテゴリー)に禁煙率(タバコを吸う、吸わないの2群) に差があるかどうかというような場合です。

◎Wilcoxonの順位和検定
m個のカテゴリーに 順序関係がある場合この方法を用います。 (2群が正規分布をするかどうか分からない場合にも適用できます。)
例:降圧剤としてのA薬の臨床比較試験での改善度に関する以下の表 で、改善度をよい方から順に1、2・・、5とした場合、この2群に差が あるかどうかを検定する場合。
改善度 12345
A薬912119041
対照薬371016339
12192125380
帰無仮説を2群間に差がないと仮定し検定を行います。 ここでは有意水準1%で 有意差が認められるという結果になり、A薬のほうが 改善度に優れていることがわかります。


3)多重検定
帰無仮説がひとつしか設定されていない場合、 2標本t検定で問題ないのですが、比較対象が3群以上存在し、帰無仮説が複数個になると、 検定の多重性の問題が生じます。
たとえば3群(A,B,C)を比較するとき、”全体としての 有意水準”を 5%で検定したいとします。 AとC、BとCについて有意水準5%の2標本t検定を2回繰り返すとき、 もしその母平均 (それぞれa,b,cとする)がa=b,and,b=c(つまりa=b=c)を満たしているなら、 2つの帰無仮説のうちどちらか 一方が棄却されるとa=b=cという帰無仮説は棄却されることになります。このとき、 帰無仮説が棄却される確率は約9%であり、設定した5%より大きくなっています。
多重比較法とは、このようなことが起こらないように”全体としての有意 水準”を公称の値(あらかじめ宣言した値)にコントロールできるように 一回一回の検定における個々の有意水準を調整する方法 を言います。

●t検定と多重比較法の使い分けについて
平均の差の検定を複数回行うときに、それらの検定すべて において有意差があるという結果のみに意味があるときは、 t検定を繰り返して用います。一方、それらの 検定のうち少なくとも1つ以上の検定での有意差に 意味があるときには多重比較法を用います。

例1:2種類の既存薬AとBを組み合わせた配合薬Cの配合効果を評価する場合。
この場合、既存薬A,Bのそれぞれの効果と配合薬Cの効果を比較します。ここで いいたいのはCが既存薬A、Bの両方よりも効果があるということです。「CがAよ りも優れている、かつCがBよりも優れている」ということを 示します。 このような場合には2標本t検定を繰り返して用いるほうが適切だと考えられます。

t検定の繰り返しで、 どれかひとつ有意差が検出されたとき、その検定のみを 取り上げて「有意差がある」とはいえません。また、複数の検定のうちひとつでも 「有意差がない」と言う結果がでれば、上の例でいうと結果としてわかることは 「CはAより優れていて、かつBより優れている、といえない」ということだけです。
    
例2:新薬の用法を2種類(A1、A2)設定しそれらの薬効と標準薬(C)の 薬効を比較する場合。
ここで示したいのは「2つの新薬のどちらか一方、または 両方がCより優れている」ということです。 「A1がCよりも優れている」「A2がCよりも優れている」と個々に言いたいとき 2標本t検定を用いると、すでに述べたようにどちらか一方には差がある (優れている)という結果が出る確率が高くなってしまうので、 多重比較法を用いたほうがよいといえます。

多重比較法で有意差が検出されなかった検定では (例えば、CとAに有意差がなかったとすると) 「AはCよりも優れているという結果が得られなかった」だけで ”帰無仮説を保留する” ということになります。これは多重比較法では 有意水準を調節しているため 単回の検定よりもさらに、積極的には帰無仮説が支持されないことを示しています。

この統計解析プログラムパッケージに存在する 多重検定の方法は5つです。下の”多重検定”をクリック するとそれぞれの説明にうつります。
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